涙の欠片

って、思っても繁華街までカナリ遠い。

歩きで行ける距離ではない。

チャリなんて引っ越ししてきてから買ってないし…


タクシーでも呼ぼう。そう思って玄関を出ると「遅ぇよ!!」と怒鳴り声が飛んできた。


身体が飛び跳ねると同時に目線を前に向けるとバイクに跨った一馬が険しい顔をしていた。


「……何で?」

「後ろ乗れ」

「だから何で?」

「繁華街行くんだろうが。送っから」


不機嫌そうな声を出す一馬に戸惑いながら頷くと「早くしろ。時間がねぇ」と一馬は急かす。


メットを押し付けられて、それを被りあたしはバイクに跨る。

跨ってすぐにバイクの爆音とともに一馬は走らせる。


時間がない?
分かんない…、何がどうなってんのか分かんない。

何で麗さんも一馬も焦ってんのか分かんない。


そんな一馬に強張ったまま、あたしは一言も口に出さずに繁華街まで辿り着くのを待っていた。


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