バレットフィンク
このバンドには向上心が欠落していると以前からタケシは感じていた。


今日の練習に関してもタケシは、怒鳴ってやりたい衝動を何度我慢したか知れない。


週に一度の練習で腕を上げて来る人間と言えば、タケシとコウスケだけであった。それ以外はこれと云った僅かな成長がたまに見受けられる程度。


皆には内緒にしているが、タケシは以前から友人であるリョウタから誘いが掛かっていたのである。


リョウタのバンドは、コピーとオリジナル両方を演奏しているバンドで、今のバンドと比べる方がバカらしい程のレベルの格差が存在した。


タケシは今日の練習が終わった時点で、このバンドから脱退する事を決意していたのである。


彼の理想とはかけ離れた場所にいる事が、一番のフラストレーションとなっているタケシの胸の内を知ろうとしている者はいないであろう。


タケシは深呼吸をして高鳴る気持ちを必死におさえながら、真剣な表情を作ると皆に向かって


「なあ、実は皆に重大な話があるんだ。だから真剣に聞いて欲しい!」


と、断固とした口調で話し始めた…。



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