夢で桜が散る頃に。
事務所の待合室で、菜乃葉の仕事終わりを待つ。
目の前にある大きな水槽では、青い魚が時々その綺麗なうろこで光を反射しながら、悠々と泳いどった。
「お待たせ」
キィ‥と扉が鳴き、そこから顔を出す菜乃葉を見て少し胸が痛む。
それは、今日だけ違う『夢』を見たから。
分かっとる。
今、此処におる事も、菜乃葉に今日会おうとしたのも‥‥
全て『夢』の通りであるという事が。
でも、それでいいんや。
菜乃葉の為なんや。
例えそれが『夢』で仕組まれている事でも。
「何処に行く?」
「そうやなぁ、とりあえず飯でも行くか」
今日が多分最後や。
俺が菜乃葉の顔を見てられるのは。
やから今のうちにたくさん菜乃葉を目に焼き付けとかんとな。
「しかし大変やなぁ、超売れっ子モデルは」
「まぁね。インタビューだけなのに、結構疲れたもの」
「今日、朝ん7時からやったんやろ?」
菜乃葉は疲れたというものの、全くその疲れを感じさせない顔をしている。
ああ、これからコイツにどれだけ悲しい思いをさせるんやろか。
そう思うと、何も知らない菜乃葉に対して感じる罪悪感はとても大きなもんや。
あれから食事をして、ショッピングをした。
行く先行く先で、菜乃葉を見る人は多くて。
確かに菜乃葉は綺麗やし、かなり人気のあるモデルやし。
俺みたいなヤツが隣歩いてええんやろか。
一緒に出掛ける度に、そう思う。
と、グイッと腕を寄せられた。
「何距離とってるのよっ!!」
俺の腕に、菜乃葉は自分の両腕を少し強引に絡ませながら言った。
「いや、なんつうか、その‥なぁ」
「‥‥明日なんでしょ?」
ポソリ。と悲しそうな顔をして、そう言った菜乃葉に視線が泳いだ。
そうや、俺が逝くのは明日。
でも、明日やない。
お前を本当に悲しませるのは明日やない。
やけど今は、お前との時を楽しみたいんや。
「菜乃葉、今はええやろ?そんな事」
「‥ゴメン」
「さ、次行くでっ!次っ!!」
明るく振舞って、次に来たのはアクセサリーショップ。
海外からも多額のアクセサリーを輸入している、有名なブランド店や。
「な、何買うのよ。こんな高いものしか置いてないところに来て」