夢で桜が散る頃に。

どろどろと、流れ出る血は止まらない。
そして‥‥

「志黄ッ!!」

俺の名前を叫ぶ、お前の涙も止まらない。
俺に駆け寄って来て、傷口を押さえる俺の手の上に、菜乃葉は自分の震える片手を添えた。
もう片方の手で携帯を器用に操り、警察と救急車を呼ぶ。

「っ、‥止まら、ない‥‥」

俺の流れ出る血に、手を赤く染めて言った。
ああ、ここも同じやなぁ。



『夢』と。



『夢』で傷の痛さは何度も体験していたから、こんな事を考える余裕があった。
さっき俺を刺した女は一つ悲鳴を上げて、どこかに逃げ去った。
菜乃葉はどうやら、その顔に見覚えがあるらしい。

「志黄、‥これって‥」

お前も見てたんやろ?
『夢』を。

「い、嫌っ!!嫌よ『夢』の通りになるなんて、嫌!!」

これは、『夢』とは違う台詞。
俺が最後やから、『夢』から開放されたんやろか。
菜乃葉を守った俺に対して、神様が褒美をくれたんやろか。

「これ‥『夢』?『夢』よ、そうよ『夢』なのよ」
「‥ちゃう、‥『夢』‥やない」
「だって、ありえない。ありえないわよっ!!こんなに何度も同じような事‥っ」
「俺ら、‥‥『夢』で、こ‥な話、‥しよった、か?」
「‥っ」
「現実、なんや」

そう教えると、菜乃葉はとうとう泣き崩れた。
菜乃葉の涙と共に、空から降って来た雫が、
俺の頬を濡らす。

「‥雨、や」

だんだんと激しくなる雨。
それは地面に叩きつけられては、染み込んだ。
俺の血とは混ざり合って、鮮明な赤を作り出す。
菜乃葉と俺の手に打ち付けてきて、手が元の色に戻っていった。

「‥桜‥」

桜が激しい雨に打ちつけられて、

花びらが散ったり、
花自体が落ちたり。

ははっ、桜と共に、逝く事になりそうや。
って言うたら、お前は俺を殴るか?
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