夢で桜が散る頃に。

「なぁ、‥菜乃葉」
「‥何っ?」
「お前‥俺といて‥、幸せ、‥‥やったか?」
「何言ってんのよっ、あんたはまだ死ぬって決まったわけじゃ‥」
「俺‥分かる、んや。死ぬなぁ、‥てな」
「‥‥あんたは、どうだったの?」

俺?

お前と一緒に

笑ったり、
泣いたり、
時には喧嘩して。

そういや、よう殴られたなぁ。
そして、最後にお前に見送られるんや‥‥

「幸せ、すぎて‥‥死に、そうや」
「‥もう、死ぬんでしょ?」
「はは、‥そう、やった‥」

でもな、お前に最後悲しい思いだけさせて逝ってしまいそうやから、それは後悔なんや。
最後は笑顔でって思うんやけど、それはホンマに無理な話やろ?

「な、のは‥すまん‥」
「え?」
「もう‥‥」

意識がぼやけてきた。
お前の顔も、ぼやけてよう見えへん。

「ちょっと‥まって、しっかりしなさいよっ!!」

なんて言よるんかも、分からんごとなってきた。
すまん、言いたい事まだ沢山あるに‥‥
口が思ったように動かへんのや。

「いや、いやよっ!志黄っ!!」

まぶたが、重くなってくる。
はは、『夢』から覚めるんか。
なんて思ったが、現実だとさっき自分で菜乃葉に言ったんや。
残念ながら『夢』やない。

菜乃葉の後ろにある、この公園の中で一番大きな桜の木の最後の花が雨に打たれて





落ちる。



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