夢で桜が散る頃に。
今、真っ暗な世界に私はいる。
何も見えない、聞こえない、触れない。
そんな世界の中に私はいた。
さっき、彼女に刺されて‥‥
それから、どうなったの?
何も頼るものが無く、私は足をその闇の中へと進める。
すると、後ろに何かの気配を感じた。
暖かい光が、私を包み込む。
私を、抱きしめる。
「‥‥し、おう?」
「なんや、お前はまだここには来られへんで?」
ニッと笑って見せるその顔、前に回されている手はまぎれも無く‥‥
「っ、志黄ッ!!」
私は志黄に抱きついた。
志黄と離れて一週間も経っていないのに、
もう何年も、
何十年も、
何百年も、
会っていないようだった。
「菜乃葉、ごめんなぁ。悲しい思いさせてもうて」
「そうよ、志黄のバカ!」
ドンッと志黄の背中に回した手を打ち付けると志黄は、痛いがな‥。と笑って言った。
「‥‥これ、『夢』なの?」
「ああ、そうや」
「じゃあ、私は死んでない?」
「菜乃葉はまだ、死ぬ時やない」
そっか、死んでいないんだ。
そう思ったら嬉しいような、悲しいような。
複雑な気持ち。
さっきまで真っ暗だった世界は、志黄のおかげか真っ白になっていた。
でも‥‥
「もう、来たか」
辺りからじわじわと、黒が私たちに迫ってくる。
また、世界が黒くなっていく。
そして抱きしめていた筈の志黄の体が、手から抜ける。
「‥え?な、なんで!?」
志黄の体に触れられない。