夢で桜が散る頃に。
「なんや、機嫌直してぇな。冗談やて、冗談。」

帰り道、薄暗い道を2人で並んで歩く。
さっきの言動で、志黄は私の機嫌取りに手を焼かせているよう。
別に、怒っているという訳ではないのだけれど‥‥。

「誰も本気になんてしてません。」
「俺は本k‥‥」

ゴッ!!

本日2度目。
何度殴っても、痛いとは言わない志黄。
逆に、なぐった自分の手が痛い。

‥‥鉄板か何か、体の中に入ってんじゃないの?

「なぁ、菜乃葉」
「‥‥何よ」

志黄は急に声を落として呟くように訊いて来た。

「もし、本当にあと2週間しか俺が生きられんかったら、どうするか?」

と。

「な、何言ってんのよ。そんな事あるわけ無いじゃない」
「‥‥せやな、そんなわけない、か」

この後、結構沈黙が続いた。
自然と重苦しくなる空気。
ああ、連れて行かなきゃ良かった。という後悔に私は押し潰されそうな状態。
そんなわけ無い。と自分に言い聞かせるが、もしかしたら。と思ってしまう自分もいて、頭の中がゴチャゴチャとしてきた。
隣を歩く志黄を見れば、何か深刻に考えている様に見えた。

やっぱり、気にしてる?

志黄の顔を見ていたら、その口が動かされ、沈黙が破られた。

「俺な、“夢”見たんや」
「‥夢?」
「ああ、“夢”」

なんか、苦しいんや。
ものすごく。
お前は俺の顔覗き込んで泣きながらな、俺の手を握っとってな。
何か一生懸命になって言よるんや。
でもそれが何なのか分からんくて、視界は少しずつ霞んで来てな。
俺はお前の頬に手を添えようとするんやけど‥‥
お前に届く前に、腕の力が抜けてしもうて届かへんのや。

「‥‥」
「なんでやろうなぁ。そん時のお前の手も、俺の手も、赤く染まっとった」

しみじみと思い出を語る様に、控えめに笑いながら言う志黄。
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