夢で桜が散る頃に。
俺の“仮”命日まであと3日に迫っていた。
今、俺は夢の中にいるようや。
毎日、毎日、同じ夢ばかり見とる。
占いをする、2日前から。
毎回、菜乃葉が俺の手を握って泣いとって、俺の手を握っとるその小さな手は赤く染まっとる。
っちゅう『夢』や。
でも、違うんや。
同じでも違うんや。
最初は菜乃葉の後ろには何も無かった。
ただ、真っ黒い闇が広がっとっただけやった。
なのに、日を重ねる度にハッキリと見えてくる。
桜が。
見え出したばかりの時は、桜は少し咲いているだけ。
でも、少しずつ満開になって、やがて散る。
それは、現実の桜と同じようやった。
菜乃葉が泣きながら一生懸命何を言よんかも分からん。
せやけど、今は分かるようになった。
『嫌、嫌よっ!志黄ッ!!』
何が、嫌なんや?
そう聞こうとしても声が出らへん。
空気を大きく吸って声を出そうとしても、空気が口を通って外に出されるだけ。
そして、もう一つ分かるようになったのがある‥‥
腹部に走る激痛。
気にする事は無いと思っとった。
最初はほんの少し痛いだけやったから。
でもどんどん痛みは増し、どんどん苦しくなったきたんや。
おかしい、どんどんハッキリとしてきとる。
今日の『夢』は、変な事を言うけど綺麗やった。
桜の花びらがどんどん散っていっとった。
まるで、季節外れの雪の様やった。
どうやら時間は夜の様や。
桜がライトアップされとってな、ホンマに綺麗なんや。
まぁ、菜乃葉には負けるけどなぁ。
あ、何や?
‥‥雨か?
冷たい水が空から降ってきて、菜乃葉と俺を濡らした。
菜乃葉と俺の真っ赤な手は、少しずつ本来の色を取り戻す。
なんや、降らんといてや。
せっかくの綺麗な桜が、はよ散ってしまうやないか。
舞っていた桜の花びらは、次々に地面に叩き付けられる。
桜の木からどんどん無くなっていく季節外れの雪。
腹部の痛みは、また一段とキツくなっとった。
腕が勝手に浮いて、菜乃葉の頬に伸びた。
でも、届かずにズルリと力無く落ちる。
ああ、またいつもの様にまぶた重くなってくる。
『夢』から、覚めるんか。