夢で桜が散る頃に。



『夢』の話を志黄から聞いた日、私も『夢』を見たの。
その日から繰り返し、繰り返し。

“同じ”だけれど、“違う”『夢』を見ていた。

志黄が倒れていて、私は泣いている『夢』。
最初は何も無い闇の中に、倒れている志黄と、泣いている私がいるだけだった。

だんだん桜の花びらが1枚、2枚と落ちてきて、雪の様に辺りを舞っていた。
周りも少しずつ明るくなって、一瞬だけ目を回りに見やると、桜の木が道を作っていて、その桜の木には薄明るい電灯がぶら下がっていた。
そして近くには噴水があって、水をバシャバシャと宙に上げていた。

此処、公園‥‥?

ここは私の所属事務所の近くにある公園だ。
七色にライトアップされたその噴水。
他にも女の子の銅像、時計の花壇。

‥‥これは、『夢』。

分かってる。

『夢』‥‥よね?

『夢』以外のなんでもない。

でも‥‥

いつもに増して、今日はリアルだった。
志黄が前に私に話した『夢』の話では、2人の手が赤く染まっていたと。
確かに志黄の手も、私の手も赤く染まっていた。
けれど手だけじゃないのよ、赤く染まっているのは‥‥。
私はいつも志黄の頭を膝に乗せていた。
つまり、志黄は寝る状態で‥。
だから志黄の体全部が目に入る。

「志黄‥‥」

口が勝手に動く。
いつも、同じタイミングに。
今、私の目を支配しているのは‥‥
赤くなってしまった自分の服、手。
そして‥‥

志黄の腹部から大量に流れ出た血。

昨日見た『夢』と唯一違ったのは、

桜があと少ししかない事。
―――現実の桜も、もう残りが少ない。

雨が降っていた事。
―――これじゃあ、桜が早く散ってしまう。

あとは‥‥



志黄の隣に赤をまとった刃物が転がっていた事。



これで大体予想が付いた。
何故、志黄が血を流して倒れているのか。
何故、私が懸命に泣いているのか。

志黄の手が、私の頬に伸びてくる。
でも触れる前に宙を一瞬舞って、ゴトリと地面に落ちた。
ゆっくりと瞳を閉じる志黄。

駄目っ!
今、目を閉じたらこっちに戻って来れなくなるわよっ!!



志黄‥‥っ!!
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