涙の終りに ~my first love~
オレを傷つけた女、
オレをボロボロにして行った女、
憎むべき女であり怨んでもいた。

だけど思わぬ展開から泣かせてしまい、傷つけられた事も怨んでいた事も何もかも忘れ
またその女を受け入れてしまった。

「また電話する」と言って受話器を置いた後、オレは情けない男だと鼻を摘んだ。

もしあのとき直ぐに手紙を読んでいたら、
また真子と付き合うなんて絶対にあり得なかった。
だってオレは真子と会うのを避けていたし、そもそも二人きりで会うなんて聖子に悪くてできない。

「バカにするな!」なんて言わないまでもなんとかして真子に連絡を取り、
「絶対に会う気はない」と
伝えていただろう。
それになんであの時に限ってオレは左側に座ってしまったんだろう。
たとえ左側に座っていたとしても視線をドライバー側に落としていれば彼女の存在に気付く事なく通り過ぎていたのに・・・ 
女神のきまぐれだとすれば残酷なきまぐれだった。
もしその残酷な女神に一言いえるのなら”涙”は反則だと言いたかった。
女からの手紙を読まない男を、きまぐれにという名の糸で引き寄せめぐり逢わせたとしても、涙は反則だ。
女の涙に男は勝てない。
あの場面で真子を見かけても、涙さえなければその後の展開は絶対に変わっていた。

しかし女神のせいなんかにして悔やんでも仕方ない。
問題は聖子だ。彼女にはなんの落ち度もない。
オレが真子にされて傷ついた事と同じ行為を今度は聖子にしようとしている。
オレの方から声を掛けてその気にさせた聖子を、
身勝手な都合で振り解こうとするなんて。
ましてその痛みがどんなものか身を持って知ってるくせに。

最低な男だ、畜生以下だ。
せめてもの救いと言えば聖子との間に想い出があまりない事だったが、
それはつき合って日が浅いというだけの事で、人の心というものはそんなものじゃないのは分かっていた。
かといって二人をうまく使い分けて上手につき合う二股のような考えは毛頭なく、
日の落ちた公園を後に全速で駆け抜けて来て道のりを、帰りは俯きながらゆっくり歩いた。

帰りながらオレの出した結論とは、この事を正直に伝え聖子とは早く別れる事だった。


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