涙の終りに ~my first love~
有澤はやきとりを食べながら何気に話した事だけど、
オレはその言葉を聞いた途端、手からグラスを滑らせテーブルの上にブチ撒いてしまった。

「ユウジ何やってんだよ、もう酔っ払ったんじゃねえの」と
勝史は笑いながら店員におしぼりを頼みテーブルを片付けていたけど、
オレには砕け散ったグラスの破片と氷の粒に聖子の命が重なり合っていた。

テーブルの上を片付けてくれている勝史を無視してオレは有澤に詰め寄り、

「マジで? 冗談だろ? 聖子が死ぬわけねぇよな!」

と両手で肩を掴みながら聞き直すと、オレの慌てように有澤はびっくりしながらも
「なんでユウジがそんなにムキになんの?、オレだって人が死んだなんて嘘は言わねえよ」とビリヤードでもするかのように片目を閉じてテーブルの上の氷を指で弾いていた。

「聖子が死んだなんて・・・ そんな・・・ 」

オレは目の前が真っ暗になり言葉を無くした。
真子とは違う意味で聖子はいつも心の中にいた。
それは正直言って傷つけたという後ろめたさだけかも知れないが、
もうこれで直接謝る事もできなくなった。

「なんだよ~ユウジ、聖子に気があったんじゃねぇの~」

「おまえ真子以外に聖子も狙ってたの?」

なんて冷やかしの言葉がメンバーから浴びせられていたがオレのハートには届いていなかった。

オレはこの時、神社での聖子の陽に焼けた優しい笑顔を想い浮かべていた。
何度説明しても”離れ”の意味を理解しなかった聖子・・・ くちづけの後の照れた瞳・・・
そんな聖子がすでにこの世にいないなんて・・・

オレのあまりの落胆ぶりにやがてメンバーも冷やかしを止め、楽しいはずの場が一気に静まり返った。

「有澤・・・ もう少し詳しく聖子の事を教えてくれ・・・」

とオレが振り絞るように言うと
黙って頷いた有澤は自分の知りうる限りの聖子の死を語ってくれた。

交通事故の巻き添えでクラッシュして吹き飛んできた車と壁に挟まれてほとんど即死状態だったらしい。
しかも死後2年が経過していた。
2年という事は逆算するとオレと別れて間もない事になる。
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