涙の終りに ~my first love~
レクイエム
夜に誘われるようにアクセルを固める有澤はやがて、
国道から細い裏道のような路地に入り込み、下り坂を挟んだ信号機もない交差点で静かにブレーキを掛けた。
愛車にまたがったままの有澤が指差す方向に歩き出すと、
壁の色が一部だけ不自然に白く修復された部分があり、そこが事故の場所だとひと目でわかった。

この事故現場を目の当たりにした事で、嫌でも聖子の死を受け入れさせられた。

オレは白く修復された冷たいコンクリートの壁全体を両手で撫でて回った後、
頬を摺り寄せながら心を込めて「聖子・・・ ごめん」と囁いた。

そんなオレの姿を見ていた有澤はバイクのエンジンを止め、タバコを吹かしながら車の通りの多い国道の方に歩いて行き、続けてオレはその場に跪き、目を閉じ両手を合わせながら「遅くなってごめん」と呟いた。

その瞬間、後方からの生暖かい風がオレを包み、甘い髪の香りを漂わせながら背中から
右の頬を撫でいった。

オレはこの時、”聖子が傍に居る”と直感した。

そして「ユウジ、来てくれたんだね」と耳元で囁いているような気がした。

「聖子、こんなに遅くなってごめん。亡くなったなんて知らなかった。
今さらオレの顔なんて見たくもないだろうけど、一言お詫びが言いたくて・・・」

聖子はオレの言葉を静かに聴いてくれている様子で、恐怖心の欠片も無かった。
やわらかな風に包まれたまま
「情けない男で本当に悪かった」と両手を合わせ祈り、
「オレがもっと強い男なら聖子を離しはしなかった」と呟くと、納得してくれたのか
オレの周りで小さなつむじ風を描く聖子は別れを惜しむように少しづつ天の方へ舞い上がり、満天の星空に向かって遠く離れて行った。

辺りが急に静まりかえり夜の気配を取り戻した頃、静かに夜空を見上げ
「聖子・・・」と呟き、勝手な解釈だけど聖子はオレを許してくれているような気がした。

振り返ると有澤が国道の方から缶コーヒーを両手に戻って来るところだった。

夜空を何度も見上げながらオレの前まで来た有澤は、
「ユウジ、ひょっとして聖子と話してたの? それとも独り言?」と不思議そうな顔をして聞くのでオレは立ち上がりながら
「両方!」と答え有澤の投げたコーヒーを受け取った。

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