涙の終りに ~my first love~
月日は流れた。
そしてただ逢いたいという気持ちだけが募った。

こんなに狭い地方の街でも人ひとり捜すとなれば、とてつもなく広い街に思えた。
それまでのオレは駅前に一日居れさえすれば、街中の皆にでも逢えるような感覚でいた。
なのに実際はなす術もなく、ただ悪戯に日付だけが変わっていった。

オレはこの頃よく同じ夢を見ていた。

夢の中で身体は中学生だけど、意識の中には19のオレがいて今なら彼女の教室に行けば真子に会えると思う。
そして自分の教室を飛び出し彼女の教室を目指そうとするが階段がとてつもなく長くなっている。
それは過ぎてきた月日の長さでもあるかのように先が霞んで見えないほど長い階段で
気が遠くなるような思いを抱く。
だけど迷う事なくオレは過去へと続く長い階段を必死になって上がり始める。
なのにいつも階段の先に辿り着く事は出来ず、汗だくになりうなされて目を覚ます。

そんな夢を繰り返し見ていた。

そしていつしかオレは
”またいつもの夢を見ている”と夢の中で気付くようになっていた。

しかし夢だと分かっていても必死で階段を駆け上り、
”現実の世界で逢えないならせめて夢の中だけでも”と一生懸命になるが、
結果はいつもと同じで遥か彼方にある階段の先には行けない。

ある時なんか必死で階段を駆け上っているとその途中に聖子が佇んでいた。
聖子はいつもオレに見せていたあの優しい笑顔で

「ユウジ、そんなに急いでどうしたの?」と語りかけてくる、

すると夢の中のオレは聖子が亡くなっている事を忘れていて、
急いでいる理由を正直に話すべきか戸惑っていると、聖子はすっと立ち上がり、
微笑んだままオレに手を振りゆっくりと階段を降りて行こうとする。
慌てて「聖子! ちょっと待って!」と
呼び戻そうとするが何故か声が出なくて、虚しく聖子との距離は離れて行き
なんとか声に出して
「待って!!!」と
叫んだ時にはベッドの中という、後味の悪い嫌な夢も見た。

その後味の悪い夢に加えオレって夢の中でもええカッコしでダメだな奴だなとも思った。

少し考えれば聖子にだって話したい事は沢山あるのに、
夢の中でも聖子に気を使い真子の名前を出そうか迷うとこが情けなかった。
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