涙の終りに ~my first love~
すると慌てて飛び起きた進一は「あと一人!!!」と叫びながらトランクを開けていた。

進一の奴、黙って大人しく二十年後を想像しているのかと思ったら、
残りの一人を血祭りにあげる事を考えていたのかと思ったオレは奴の後ろに廻り込み、
羽交い絞めをするようなカッコで「もうやめろ!」と引き止めた。

「ユウジ離せ!」

と叫ぶ進一の脇からトランクの中を覗き込むと、
なんとも表現しがたい器具が並んでいた。

「SMの趣味なら何も言わんが、それマジで使うと死ぬぞ!」

とオレは必死で進一にしがみついた。
「離せ!」といきり立って叫ぶ進一はやがて「ユウジ頼むから離して・・・」と
嘆願するように変わってゆき、
オレは離すからトランクを閉めろと交換条件付けた。

すると疲れ切ったように「分かった・・・」と話した進一は凶器の詰まった愛車のトランクを足で力任せに閉じていた。

それを確認したオレが手を離すと、二人は同じ姿勢で膝に手を乗せ乱れた呼吸を整えた。

だが休憩するかに見えた進一はいきなり運転席に駆け寄ると、シートの下に隠していた木刀を取り出し新成人の群に飛び込んで行った。
呆れたオレは「この車は凶器格納庫か・・・」とフェンダー部分に持たれ掛かると、
取りあえず勝史達が出てくるのを待つ事にした。

だがしばらくすると先に姿を現したのは進一の方で、
遠方からでも不機嫌なのがひと目で見て取れた。

気分を害したのは分かるが、友人なら進一を止めて当然なので謝るつもりはなかった。

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