[短]6月の第2ボタン

もしこんな場面をクラスの誰かに見られてしまった日には、

僕のいない場所で、僕がさらし者にされるということは目に見えている。


見えない場所で笑われていることほど不愉快なことはない。


雨の音が、数分前よりも強くなっているような気がした。



「幸希。お願いがあるの」

「…」



お願い。
その言葉を聞いて、良かったことは思い出されない。


誰かが僕に『お願い。』と言った日には、大抵嫌なことを押しつけられたり頼まれたりするだけだったから。



「ねえ、今度行く学校って、シャツにブレザーなんでしょう?」



こもったように、蚊の泣くような声を出す。


正直聞き取りにくかったけれど、重要なところは聞き取れたようで、

彼女の言葉が点と点を結ぶように繋がっていくのがわかった。

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