[短]6月の第2ボタン

例えばこれが夏まっさかり、灼熱地獄のような日々に訪れた恵みだったなら。


それはさぞかし沢山の人に喜んでもらえるのではないかと思う。



沈黙に包まれた。
僕も麻人も、互いに声を発そうとはしない。


流れ行く時間に、ゆっくりと体を預けるだけだ。




…と、どこからか、耳につくような古ぼけた音が聞こえてきた。

その音の主はすぐにわかった。


もうすっかり聞き慣れてしまった、教室の扉を開ける音だ。



「…幸希。」



鼓膜の奥にすんなりと入り込む彼女の声は、心なしか少しだけ悲しみが混ぜ込まれているような気がする。


教室の扉を開けると共に僕の姿を確認した彼女は、そっと肩を沈めた。

人間がホッとしたときにする仕草だ。

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