[短]6月の第2ボタン

「…幸希っ…」



野球部が金属バッドで硬球を叩く音は、静かすぎるこの空間によく響く。


故に、僕の耳にも届いた野球部のかけ声は、彼女の耳にも届いている筈だ。


にも関わらず、さっきから表情を崩さない彼女に、僕は軽い尊敬の意を抱いた。



「なんとか、言ってよ……。」



揺るがない。
そう思っていた。




─────────…
────────…



『幸希、ごめんな。』



その日もやっぱり雲行きは怪しかった。



いつもの陽気な表情と違い、冗談でも笑えない雰囲気を背負って帰宅した父親から、

僕は無意識に嫌な予感を感じ取ったのか、自然と目が伏せてしまった。


梅雨でもないのに、5月の雨は予想以上にじめじめしていた。

< 8 / 22 >

この作品をシェア

pagetop