[短]6月の第2ボタン
「…幸希っ…」
野球部が金属バッドで硬球を叩く音は、静かすぎるこの空間によく響く。
故に、僕の耳にも届いた野球部のかけ声は、彼女の耳にも届いている筈だ。
にも関わらず、さっきから表情を崩さない彼女に、僕は軽い尊敬の意を抱いた。
「なんとか、言ってよ……。」
揺るがない。
そう思っていた。
─────────…
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『幸希、ごめんな。』
その日もやっぱり雲行きは怪しかった。
いつもの陽気な表情と違い、冗談でも笑えない雰囲気を背負って帰宅した父親から、
僕は無意識に嫌な予感を感じ取ったのか、自然と目が伏せてしまった。
梅雨でもないのに、5月の雨は予想以上にじめじめしていた。