[短]6月の第2ボタン

その日僕は、生まれての失恋をしたせいもあったのか、

一隅で起こっていることなど知らず、自分ひとりだけが地獄に取り残されたかのように、

世界中の色を失っていた。



『せっかく高校に受かって、クラスにも馴染んできた頃だと思うんだが……。

幸希、ごめんな。父さん、会社クビになっちゃったよ……。

しばらく東京のおじさんのところに暮らすことになると思うから、そのつもりでいなさい』




肩を深く落としたままリビングを去る父親の背中は、今まで見てきた中で一番小さかった。



さっきまで僕に笑いを与えてくれていたテレビの音が、そのときばかりは耳障りで仕方がなかった。


聞けることなら、もう一度同じ言葉を、父から聞き出してやりたいと思った。

< 9 / 22 >

この作品をシェア

pagetop