過去の贖罪
その晩、会社の寮の扉を抜けると、本屋に向かった。連日の真夏日のせいか、もう夜も八時を過ぎているのにかなり暑い。湿度も高いせいか、アスファルトから立ち上る熱気が、仕事でいやいや焼けた肌に襲ってくる。
僕は肌をさすりながら、本屋のまばゆい光の中に吸い込まれていった。
寮から出て本屋まではわずか三十秒で歩きつく。その隣には大手スーパーがそびえていた。一分歩くだけで日常のほとんどをここで済ますことができる。独り身にとってこれほどありがたいことはない。
旅行コーナーに寄った。そして山梨の情報誌を見ながら、ぶつぶつ独り言のようにつぶやいた。
うーん困ったぞ、行きたいとこがないなあ。富士山以外はほとんど観光地ばかりだしなあ。レジャーみたいな所はないのか。うーん困ったぞ。
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