赤りんご





そんな甘い顔で話し掛けないでよ…



ドキドキさせないでよ…



彼女いるんだったら、思わせぶりなことしないでよ…。




余計辛くなる…。








「ほっといて…」




この笑顔を見ると、どうしても無視するなんて無理だ。




突き放したいのに、出来ない。


でも、本当は突き放したくない。



自然と湧く罪悪感。




ずっとその笑顔を見ていたいと思うのに…。






今の私には、由美以外本音を話せる相手がいなかった。




最近帰り道は、いつも私の相談事ばかり聞いてもらっている。





「由美…もうダメなのかなあ…」



「まだ彼女って決まった訳じゃないじゃん!諦めちゃダメだよ!」



「うん……」



「健太もしつこく聞いてるんだけど彼女だって認めないし否定もしないんだって。水嶋くんってホント謎多いわ。」



「そうなんだ…」





「りいは水嶋くんに聞いたの?」



あの人は彼女なのかどうか…



「怖くて聞けない…」




聞いたら、返ってくる言葉は決まってる。




聞かないことで、微かな希望を持ち続けて、自分の逃げ道を作っていた。







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