あたしの廓-花魁道中-
歳は三十歳くらい、きりっとした顔立ちの女の人がこっちを見ていた。

「よろしくね」

すずしげな横顔のまま、その人はあたしの横を通り過ぎていった。

「あ、あたし綾子」

カーテンの向こうから顔さえ覗かさないで綾子姐さんは名乗った。

「あんた名前は?」

携帯と煙草を片手に、綾子姐さんはカウンターへやってきて、あたしに問い掛ける。

「百合です。本名は…」
「本名なんか聞いてへん」

ぴしゃりと言われたその一言に、一瞬体を萎縮させた。
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