サンクチュアリ
『少しは加藤さんを見習えよ』だってさ。

なによ、自分だってチャラチャラしてるくせに。人のこと言えないでしょ。

いかにも『バンドやってます』みたいなカッコしてるんだから、お人形みたいな加藤さんとつり合うわけないじゃない。なに夢見てんのよ。


それに性格だって子供っぽいんだから。流行りものが大好きで、いつも色んなものに手を出してさ。

どうせすぐ飽きるのに。服も食べる物も――女の子だって。


だけどギターにだけはいつも真剣に向き合ってる、そんな智彦が好きだった。

そんな子供っぽいところだって、本当は好きだったの。


ああ、大声で泣いてしまいたい。

でもこんな場所でできるはずもなくて、必死にこらえてたら『ひっく』って小さく喉がなった。

でもしゃくり上げる声は人混みのざわめきに消えて、きっと誰の耳にも届かない。

それでいいのに。こんな自分みっともないから見られたくないのに、なんでだろ。


とても、さみしい。
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