【短】きみに溺れる
「俺の友達がこんど結婚式をするんだけど、2次会の幹事をまかされてさ。
一度、店の下見に行ってみた方がいいかと思って」
すらすらと説明するレンの声に、後ろめたさは感じない。
なぜ私を誘うんですか?
そう聞きたかったけど、口にしてはいけない言葉に思えた。
翌日、“下見”のために私たちが入ったのは、ビルの地下にあるダイニングバーだった。
彼はビール、私はジントニック、そして食べ物をいくつか注文した。
店内はアジアのリゾートのような雰囲気で、壁には独特の模様の手織りがかかっている。
ほとんどの席が客で埋まり、あちこちから大きな笑い声があがっていた。
こんな人ごみの中でも、レンの魅力はけっして埋もれない。
それどころか周囲の人間が、よけいに彼を引き立てるみたい。
そんなことを思っていると
「ああ、やっぱり思った通りだ」
彼が言った。
何が?と目で問いかけると
「いや、なんとなくだけどさ。
黒崎はきっと、箸の使い方がきれいだろうと思ってたんだ」
「……きれい、ですか?」
「すごく」