【短】きみに溺れる
Chapter.3
――さやかと暮らし始めたのは、半年前に、彼女の妊娠が発覚したからなんだ。
だけど俺がそのことを知ったのは、すでに中絶した後だった。
さやかは妊娠を俺に打ち明けることができず、黙って病院に行って堕ろしたらしい。
初めて知ったとき、俺は怒ったけれど
「あなたの口から堕ろせと言われるのが怖かった」
と泣く彼女を見て、それ以上は責めることができなかった。
俺はずっと、俺なりに彼女を大事にしてきたつもりだ。
でも心のどこかで、黒崎への想いが残っていて、それが伝わっていたんだと思う。
だからその出来事があってからは、彼女を不安にさせないように心掛けてきたんだよ。
ふたりで暮らすようになったのも、そういうわけなんだ――…
レンがそう打ち明けたのは、
私のマンションのドアを開ける、寸前だった。
まるで、すべてを了解した上で共犯者になる覚悟があるのかを、確認するように。
私は鍵穴に鍵を差し込んだまま、彼の話に耳を傾けた。
そして聞き終わったと同時に、手首をゆっくりとまわし、扉を開けた。