【短】きみに溺れる
Chapter.1
再会なんて考えたことすらなかった。と言えば、嘘になる。
だけど
「黒崎?」
2年ぶりに彼の声でそう呼ばれたとき
大げさではなく息が止まるかと、本当に思った。
まさか上京後はじめてのバイト先で、レンの姿を見つけるとは思わなかったから。
私たちは同じ居酒屋のエプロンをつけて、見合ったまましばらく動けなかった。
「どうしたの?
もしかして2人、知り合い?」
店長が間に入ってきてたずねると
「あ、はい。高校が同じだったんです」
レンはそう答え、「な?」と私に同意を求めた。
「……はい」
「生徒会で一緒だったんですよ。俺が会長をしていたとき、彼女が書記で。
一年生なのに、すごく頑張ってくれてたんです」
饒舌な彼の表情からは、もう、戸惑いの色が消えている。
感情をコントロールして隠すのがうまい人だった。
2年前も、そしてきっと今も。