【短】きみに溺れる
あの夜から半年がたった今でも、私たちの関係は続いている。
彼とふたりで過ごせるのは、バイトを終えた23時から、せいぜい深夜の2時まで。
たったそれだけの時間の中で、私たちはお互いを貪った。
そして、過ちを犯し続ける、罪の味を分け合った。
私の部屋に入った彼が、そっと腕時計をはずすとき。
私はいつも、目まいにも似た幸福感に包まれる。
テーブルの上に時計を置く、コトン、という音。
わずらわしい物をはずし、自由になった彼の手で、私の自由を奪われるという幸せ。
ベッドの上で彼にすべてを支配される瞬間が、何よりも愛しかった。
そして、彼が朝を待たず部屋を出ていくとき。
私はいつも、胸を引き裂くような痛みに襲われる。
玄関の扉が閉まる、重い音。
彼のぬくもりがベッドに残っているのに
彼のタバコの吸い殻が灰皿に残っているのに
明日の朝起きれば私はまた、独りなのだ。
その現実に打ちのめされ、涙が止まらなくなる。
だけど彼は一度として、この部屋で朝を迎えてくれたことはなかった。