【短】きみに溺れる
「俺、何か気に障ることしたか?」
「体調でも悪いのか?」
機嫌をうかがうように彼は色々たずねてきたけれど、決して、さやかさんの名前は出さなかった。
かたくなに背をむけていると、レンは私の肩を抱いて向き直らせた。
キスされそうになり、抵抗するように身をよじった。
きつくつかまれた肩が痛む。
その痛みすら愛しくて、屈してしまいそうになる。
――レンはずるい。
初めて、そう思った。
この人は、ずるくて、卑怯だ、ひどい男だ。
そしてそんなレンをどうしようもなく好きで、好きで好きでしかたなくて、離れられなくて求めてしまう私は救いようのない愚か者だ……
首筋にやわらかい唇がふれ、私は小さく声をあげた。
半年間くりかえし慣らされてきた体と心が、反射的に反応を示す。
そんな自分が情けなくて、「やめて」と叫びながら抵抗すると、顔を両側から押さえられた。
唇を割って入ってくる、熱い舌。
瞬間、すべての思考が破裂したように弾け
彼を欲すること以外、何も考えられなくなった。