【短】きみに溺れる
Chapter.5
次の日から私はバイトを無断で休み、携帯の電源をオフにして過ごすようになった。
レンの顔を見れば簡単に負けてしまうであろう私には、これ以外の方法は見つからなかったから。
だけど、会わなければ少しは忘れられるんじゃないか、という期待は見事に裏切られた。
ふたりで見たテレビ、おそろいのグラス、抱き合ったベッド。
レンの気配はいつの間に、こんなにもこの部屋に染みついていたんだろう。
ふと、初めてレンがここに来た夜を思い出した。
あのとき私は、彼の腕の中で震えながら
迷い込んだ、と感じていた。
そう、私は迷い込んだのだ。
この部屋はもう、彼が来る前の部屋じゃない。
いったい、どこに。
私はどこに行ってしまったんだろう。
目印もつけず、遠いところまで飛ばされて。
そして今、ひとりきりの部屋で涙を流しながらうずくまっている
この私は、誰なんだろう。
彼の瞳に映らない自分など
存在しないのと同じことだった。