【短】きみに溺れる
「年末から帰省してたんだけど、俺だけ先に、東京に戻ってきたんだ」
だから、と彼はささやいた。
「今日は、朝までここにいられるよ」
「……本当に?」
「うん」
レンの瞳に映った私が、幸せそうに泣いている。
この瞳の中でずっと、私は生きてきたんだ。
そう思った。
「朝まで、俺はマーヤのそばにいるから……」
カーテンの隙間から見えた空に、雪が舞っていた。
……その夜、私たちは初めて、ただ抱きしめ合って眠るだけの時間をすごした。
欲望の混じらない夜は、穏やかで
泣きたくなるほど、愛しさであふれていた。
温かい胸に抱かれながら、私はレンの寝顔をじっと見つめた。
太陽に急かされない、無防備な眠りを貪るレン。
時々、寝返りを打つと、布団の中に冷気が入る。
そんな小さなことですら、隣にレンがいる証拠に思えて、嬉しかった。