【短】きみに溺れる
朝早い神社に足をふみいれると、そこは誰の姿もなく、清らかな静寂が漂っていた。
レンから小銭を渡され、ふたりで並んでお賽銭箱に入れた。
シャラシャラと鈴を鳴らし、手を合わせる。
静けさと空気の冷たさが、しみこんでくるようだった。
そして、レンはそっと目を閉じた。
私は――
私は、目をつむらず、彼の横顔を見つめた。
この胸に深く、刻み込むように。
今、あなたは何を願っているのだろう。
横顔からは何も、はかり知ることができないけれど。
好きで、好きで、その想いだけで追いかけた人。
私を縛りつけたのはレンではなく、私自身だったのかもしれない。
……だけど。
私の願いは、もう叶った。
たった一度だけ、レンがくれた温かい夜。
一夜だけでも、あなたは私を選んでくれた。
これ以上はもう望まない。
好きだから。
ぶらさがることしかできない、哀しい糸を
私から切るの。