【短】きみに溺れる
『黒崎はがんばり屋だなぁ』
生徒会で走りまわる私を、レンはよく褒めてくれた。
本当はがんばり屋なのではなく、要領の悪さをカバーするのに必死だっただけなのに。
いつもそう。
周囲の評価とは真逆に、レンは私を見てくれる。
不器用なことを「がんばり屋」だと
友達ができないことを「孤高」だと
流行に疎いことを「個性的」だと
自信のなさを「優しさ」だと
そして、そんな私のことを
「ほっとけない奴だ」と……。
彼の瞳はフィルターのように、私の欠点を濾過していたのかもしれない。
私は自分が大嫌いだけれど、彼の瞳に映る自分なら、少しだけ好きになれた。
そして彼のことを、当り前のように好きになった。
だけどその気持ちを伝えたことは一度もない。
あの人がいたから。