【短】きみに溺れる
Chapter.2
東京での生活は、大学とバイトのくり返しのみで過ぎていった。
レンとはほとんどシフトが同じなので、毎日に近いペースで顔を合わす。
そんな日々の中、彼は時々
「こうしてると高校時代に戻ったみたいだよな」
などとつぶやくことがあった。
残酷な人。
そんなことを言われて私が喜ぶとでも思うのだろうか。
そうですね、と答えるとでも?
焦燥感はちりちりと、私の胸を端から焦がしていく。
少しずつ、ゆるやかに。
歯がゆい気持ちになりながらも
私はレンの瞳の中に、なつかしさ以外のものを探してしまう。
再会から一か月が経った、空気が冷たい夜だった。
バイトを終え、帰ろうとしていたところを
更衣室から出てきた彼に呼び止められた。
「黒崎、明日は休みだよな?」
「はい」
「晩メシおごるから、一緒に食わない?」
ふたりで。
と言う彼に、私はしばし返事を忘れ、まばたきをやめた。