one contract





って、そんな事があったんだっけ。
とボクは思い返した。

授業の終わりを告げる鐘が校内に優しく鳴り響いた。
わいわいと騒がしくなる教室の中で、ボクはしばらくボゥとして椅子に座ったままだった。
すると中学からのお友達の華ちゃんと、茜ちゃんが話しかけてきた。

「どうしたの?ぼぅっとして」

華ちゃんはよくボクの心配をしてくれる、友達想いの優しい子。
茜ちゃんは敬語が上手。
見習いたいくらいに。
でも、ボクの事を昭和の人みたいな呼び方をするのは‥‥ねぇ。
まぁ、茜ちゃんだからいいんだけど。

「あれ‥?すみちゃん‥首のとこ、どうかしたんですか?」
「?」
「本当だ、何かに‥‥噛まれた?」
「みたいですね」
「えぇッ!?」

ボクは逃げる様に教室を出ると、猛ダッシュでトイレに向かった。
勢い良く扉を開けて、鏡の前に立つ。

「‥‥あ、アオちゃん‥‥」

昨日の跡は制服で隠せてなかった。
一つは隠そうと思えば隠せるが、もう一つはどうも隠せない。
ボクは直ぐさま教室に戻り、荷物を慌ててまとめて教室を飛び出した。
その時、華ちゃんと茜ちゃんが何か言ったみたいだったけれど、そんな事を気にしている場合ではない。

―――‥そんな事より‥‥、



「アオちゃん‥‥ッ!!」

ボクはノックもしないで生徒会室の扉を開けた。
かなりの勢いをつけて開けた筈なのに、生徒会室の扉は大きいからそう勢い良くは開かなくて。
扉をあけて目に飛び込んで来たのは、ソファーに腰をかけて驚いた表情の桃と、紅の野郎。
と、向かい合ってお茶を飲むアオちゃん。

この人達、知り合いだったんだ‥‥。

「す、菫!?なんでここに?」
「な、何だ?‥“アオちゃん”ってのは‥」
「あだ名さ。可愛いでしょう?」
「へぇ、じゃあ今度から俺も“あお君”ってぇ呼んでやるよ!」
「‥‥やめようよ。先輩が“君”とか、‥‥気持ち悪い」
「なにぃ‥ッ!?」

って、そうじゃないでしょ!!

「ちょっと、アオちゃん!!なんでもっと下にしてくれなかったの!?」
「え?何が?」



「跡見えてるじゃんかぁ―――!!!」


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