one contract
撫でる手を引っ込め様とした時、僕のその手は暖かい手に握られた。
「‥‥スミレ、気が付いた?」
「‥アオちゃん、ボク‥」
「倒れたんだよ、部活中に」
「え、えぇ!?そうだったの‥ッ!?」
ガバッと勢い良く起き上がったスミレは、あぁ~っ!振り付け遅れちゃうよぉ~!!と泣き真似をしながら言った。
全く、ダンスの事じゃなくて、少しは自分の体の心配しなよ。
そう思いながらも、視線が行ってしまうのはお前の首筋。
分かってる。
スミレがまた倒れてしまうかもしれないって事。
でも、欲しい。
僕はベッドから降り、スミレと向かい合う様にして立った。
「‥スミレ」
「何?アオちゃん。あ、要る?血」
最近は僕の要求に何も言わずに応じる様になった。
むしろ積極的。
嬉しいんだけど‥‥困るんだよね、それが。
だって、そのせいで最近疲れ気味でしょう?
今日みたいにまた倒れるよ?
「 」
「‥‥‥え?」
一言囁いて、血を頂く。
「‥‥ッ、アオ、ちゃん?なんて言ったの?よく聞こえなかったんだけど‥」
「‥気にしないで、良いよ」
慣れてきたのだろう、スミレは痛みを感じて叫ぶ事が無くなった。
でも、目からは今にも溢れて頬を滑り落ちそうな量の涙。
甘い血が二つの跡から流れ出てきて、僕はそれを一滴も落とさぬ様に丁寧に舐め取った。
「ん、・・う、・・・・ッ」
スミレ、僕のせいでお前は倒れたんだ。
きっと。
他の誰でもない、
僕のせいで。
僕は今、お前を大事な存在だと思ってしまった。
誰よりも。
何よりも。
おかしいよな。
“吸血鬼”と“餌”なだけの関係でいた筈なのに。
なのに、お前は僕にとって
大事な存在。
“餌”としてでなく、一人の“人”として。
“スミレ”として。
だから、出来ないよ。
僕のせいでお前が弱っていくのに、僕がお前の血を求める事は。
だから‥‥―――――
―――――『‥‥これで、最後だから』