one contract
2人は驚く事は無く、ただ真剣にボクの話を聞いてくれた。
おかげで、少しは気持ちが軽くなったと思う。
苦笑いでも、笑えたから。
紅は話が終わると、‥今日はガキと先に帰ってろ。と桃に言って、何処かへ行ってしまった。
桃は素直に了解の返事をして、紅の小さくなっていく背中をを見送った。
桃は紅が行ったところに、検討が付いている様だった。
久しぶりに桃と一緒に帰るけど、ボクがこんな感じだから、話題もあまり良いものが見つからなかった。
すると頭に何かが乗り、見上げてみればそれは桃の手。
桃の手って、魔法の手だよね。
スッゴク安心できるんだ。
胸の辺りがポカポカと暖かくなるんだ。
桃はそっと、口を開く。
「菫は‥‥辛かったんだね」
‥‥ツラい‥?
「何で、ツラいのかな‥」
「‥それは‥‥会長のコト、好きだからじゃないのかな?」
‥‥好き‥?
「好きだから、特別だからこそ、痛い思いしたんじゃないのかな?涙、流したんじゃないのかな?」
‥‥ボクが、アオちゃんを“好き”?
「自分も、そういう事があったから‥‥。」
桃はどこか遠い目をして言った。
「‥‥桃、も?」
そっと笑顔で返してきた桃のその目には、何か強い意志がある様にボクには見えた。
ボクはイヤだったんだ。
アオちゃんが、他の人を“餌”にする事が。
きっと〝過去〟に何人もの人がアオちゃんの“餌”になったと思う。
けれど、〝今〟はボクが‥‥、
ボクだけが“餌”であって欲しい。
―――‥多分、それは無理な事だろうけど
〝今〟は“ボク”で‥‥―――――
ふと見上げた空は、今のボクみたいにどんよりとした曇り空。
今にも涙を流してしまいそうで、必死に堪えている様に見えた。
でも、我慢できなかったのかな‥?
ポツポツと小さな雫が落ちだして、
空も、泣いた。