one contract

先輩の言った事が嘘と思っている訳ではない。
けれども本当にそうであるのなら、僕はどうすれば良い?

もし、スミレの身体も心も手に入れてしまえば、スミレが苦しむ事になるだろう。
けれど僕がスミレから離れようとしている事で、スミレが悲しんでいる?
これじゃあ僕、身動き取れないじゃない。



‥‥本当、どうしたら良いのかな。



今日はあいにく傘は持っていなかった。
朝に見た天気予報では『降水確率30%』ってあったから、降りきれないだろうと思っていたし。
出来たばかりの小さな水溜りをパシャンッと音を立てて踏む。
足を進める度に容赦なく降り注ぐ雨は、制服に染み込んで重力を宿した。

「‥ゴメンね」

ここにはいないけれど、スミレに謝る。
やっぱり、さっきの事を見せ付けられたスミレは深い傷を負っているだろう。
でも、それでも‥‥。
 
ゴメンね、‥‥決めたんだ。

スミレの事が好きだから、
大事に思うからこそ、



僕はスミレを選べない。



もしお前に嫌われようとも、
更にお前を傷付けたとしても、
お前に泣かれても‥‥。

こんなに想う程、スミレの存在はいつの間にか僕の中に入り込んできていたんだ。
それに、スミレは僕で悲しんでいるだけでしょう?
悲しんでいる“だけ”なら、僕も諦め付くよ。
きっと。

視線を足元から正面へと移す。
辺りはもう暗くなっていて、雨に打たれているせいか少し肌寒かった。

‥‥水も滴る、良い男。
なんて、ね。



どちらかというと、僕は最低だな‥‥。



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