one contract
one contract -mark 8- 葵目線
あの日、僕が女の子の血を口にしたのをスミレは間違いなく見た。
その日以来、スミレは生徒会室に顔を出さなくなった。
これで‥‥、いいんだよな。
帰り道。
夕日はとっくの昔に沈んで、辺りはすっかり真っ暗の頃。
僕は一人で家路に付いた。
書類の片付けが以外と長引いたせいで、今日はいつもより疲れている気がした。
真っ黒になった空を見れば、散りばめられた宝石たちがキラキラと瞬きをして、丸い水晶も光を放って僕を照らしていた。
いつもなら、二つの影が目に入る筈なのに‥‥
隣に人がいない事は、こんなに寂しかったのだろうか。
でも、こう決めたのは自分。
校門を出ようとした時、突然後ろから誰かの声が飛んで来た。
「かいちょーサン、だっけ?」
その声のする方を振り向けば、黒い笑みを浮かべたヤツ。
「‥‥黝」
この男は同じ学年で、3年連続で同じクラス。
‥しかも親戚。
だからさっさと名前くらい覚えといてほしいんだけど。
確か‥‥黝はスミレと同じダンス部に所属している。
コイツの良い噂は聞いた事が無い。
有るのは、悪い噂ばかり。
まぁ、噂だから本当かどうかは分からないけれど‥。
で?コイツは僕に何の用?
できればこういうヤツとは、あんまり関わりたくないんだよな‥。
「おれ、知ってるぜ」
「何を?」
そう言い返すと、僕に少しずつ近付いてくる。
そして、耳元で一言。
「吸血鬼のコト」