one contract

「顔、見る位なら時間有るよね!」

ボクは生徒会室へ行く事にした。
さっそく屋上の扉を開くと、校内の生暖かい空気がボクの方へ勢いよく流れ込んできた。
足を踏み入れれば、その空気はそこ等中に漂っていて頭がクラッとする。
階段を勢い任せに駆け下りて、人をリズミカルに避けながら長い廊下を走り抜け、連絡橋を渡って、いつもダンスの練習をしている広場の隣を走っている時。
今まで動かしていた足を反射的に止める。
ボクの目の先には‥。

「‥‥浦波、センパイ‥‥?」

浦波 黝。
ボクと同じダンス部で、3年生のセンパイ。
アオちゃんと同じ苗字だけれど‥、親戚なのかな?

今日のセンパイは、いつもと何だか違った。
不気味な笑みを一つ零して、一歩、また一歩とボクにゆっくり近付いて来た。
もう触れる距離まで来たセンパイは、急にグッとボクの手を掴む。

「‥ッ!?」

一瞬、電気が走った様なビリッと痛みが走った。

「なぁ、菫。ちょっと一緒に来てくれねぇかぁ?」
「‥もうすぐ、昼休み終わるけど?」
「直ぐに終わるから、な?いいよな?」

っていうか、手離してよ。
それに‥‥、

「ボク、今から行く所があるの」
「‥あれかぁ?かいちょーサンの所か?っていうか、あれ?より戻したの?」

な、なんでボクとアオちゃんの事‥っ!!
それもあるけれど、センパイから握られている手がいい加減痛かった。

「‥‥離して」

センパイを思いっきり睨み付けながら言うものの、全く効き目無し。


「なぁ、オレ知ってるぜ?お前が“特別”なヤツだって」


一瞬、耳を疑った。
なんで、そんな事まで知っているの?
ボクはセンパイを見たまま、体が氷の様に固まっていくのを感じていた。
センパイの黒い瞳が、更に黒くなった。
それを見たボクは、まるで深い、深い底なしの沼に飲み込まれるような感覚に襲われる。

この感じ‥
一番最初にアオちゃんに血をあげた時のと似ている。



でも、全く違う。

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