one contract
「あっれ~?かいちょーサン、こんなトコロでサボり?いけないんじゃね~の?」
「‥君も、ね」
黝は僕らが来たにも関わらず、スミレの頭上で押し付けている両手首を離そうとはしなかった。
むしろ、その行動で僕を挑発している様。
「あのさ、スミレを離してあげて‥‥」
「‥‥‥離したら、コイツはお前のモノになる」
「‥はぁ?」
僕は思わず気の抜けた声を出てしまった。
僕、こういうキャラじゃないんだけど‥。
にしても、黝が何を言いたいのか分からない。
黝からスミレに視線を移せば目が合って、スミレは少し顔を赤くした。
何?なんで赤くなるのっ!?
「コイツの血“特別”なんだよな?てか、そうでもなけりゃこんなヤツから、貰ったりしないか」
黝はスミレの顔を覗き込んで言った。
「なぁ、菫は考えた事ねーのかぁ?唯一、血を与えても良いって思っているヤツが自分の血“だけ”を目当てに自分に近づいてきたってコト」
「‥‥ぇ‥?」
屋上に、空に、消えそうな程小さなスミレの声が響いた。
「‥アオ、ちゃん‥‥?」
スミレは震える瞳で僕を写した。
お願いだから、答えを頂戴。
そう訴えかけて来ているのが分かる。
でも‥‥何も答えられない。
それは本当の事だから。