君は君のままでいて
「ん?
俺が甲斐性なしなのは確定だろ?
だってさ、今すぐ僕を抱き締めて全身にキスしてって朱墨で書いてあるような美樹に手も出せないんだぜ?」


「誰がそんなっ!」


本当はすっごく思ってるけどね。


でも、絶対に自分からは言わないんだからっ!


だけど、このままだとついうっかり言葉に出してしまいそうだから。


僕は手元にあったグラスを持ち上げると中身を一気にあおった。


「美樹、それワインだぞ!」


なんだか慌てたような緑風の声が何を意味しているのかを理解できたのは、グラスの中身が全て僕の胃の中へと納められた後だった。
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