『花、愛でる人』
無邪気
意を決して向かった花屋の中では、アルミの如雨露片手に水やりをする蓮の姿が映った。
「……いらっしゃい」
「こ、んにちは……」
差し入れと称した手作りケーキを片手に、花屋の店先に現れたわたしに、蓮は相変わらず柔らかく微笑む。
ずっと頭の中で思い描いてた笑顔。
……わたしはこの笑顔に逢いたかったんだ。
向けられた笑顔に胸が高鳴り、声が上擦った。
「アガパンサスの調子はどう? 」
「すごく元気っ! 言われた通りに窓辺に置いてるからっ」
「そっか。お役に立てたなら良かったよ」
やたらに声を張って答えたわたしに小さく笑いながら、蓮は如雨露を近くの台に置いて向き直る。
わたしの真正面から目線を合わせて、蓮は優しい声で問い掛けた。
「何かお探しですか?」
決まり文句で言われた言葉とは裏腹に、声音は優しく柔らかい。
良いか悪いか、わたしに店員として花を売るという気持ちは無いらしい……。