『花、愛でる人』
「ねぇ、夢梨」
「えっ?」
「食べたいのは山々だけど、一応仕事中だから」
「……あっ」
早く食べてみて、って顔でもしてたんだろうか。
わたしの心を読んだかのように苦笑いをして答えた蓮に、思わず肩を落としてしまった。
いくら店員さんが蓮しか居ないからって、仕事中に食べるワケにはいかないもんね……。
しょぼくれて伏せた頭。
それを不意に上げさせたもの。
「あっ、美味そう」
甘い苺の香りだった。
「蓮っ、仕事中って……」
「夢梨がお花を買いに来たホンモノのお客様だっていうなら、辞めとくんだけど」
「ううん! 買わないっ!」
「それはそれで複雑……」
花屋に来ておきながら、花を買わないなんてキッパリ言い切ってしまったわたしに、蓮は短い苦笑いを浮かべている。
……ケーキなんかより、花を買った方が喜ぶのかな?
困った顔して首を捻っていたわたしの前で、
「上手に焼けてる」
「あっ!」
指を生クリームだらけにした蓮が、にっと笑ってこちらを見た。