『花、愛でる人』
見上げて窺う夏葵の顔色は、いつもと変わらない。
けど、わたしを無言で見つめる瞳は……何やら言いたげに小さく揺れている。
「……どうかした?」
何か気に障るようなことでも言ったかな?
軽く首を傾げて尋ねたわたしに、
「……不出来な妹を持った兄の心情を考えてた」
「何よソレっ!」
「だって夢梨が妹だったら、走って転ければおんぶしてやり、嫌いな食べ物をこっそり食べてやったり、お菓子作りの毒味に付き合わされたり……」
「…………」
「結局今と全く変わらねぇなって」
「うぅっ……」
図星過ぎて何も言えない。
押し黙って俯いたわたしは、夏葵が小さく笑うのを盗み見る。
「まぁ。幼なじみだろうと兄妹だろうと変わんねぇってことだ」
俺が苦労するってことは。
なんて付け加える夏葵が足を止めた。
「ほらっ。ご所望はこの辺だろ?」
夏葵の視線に促されて見上げた本棚は、草花のジャンルで固められていた。