『花、愛でる人』
「あっ、夢梨っ」
呼び止める蓮の声も聞かず駆け出したわたしに、
「ぅわっ!」
待ち受けるアクシデント。
すぐ足元にあった苗の入ったカゴを避けようとして、バランスを崩してしまった。
履き慣れないパンプスを履いて来た自分を恨んだ……。
ぐらっと揺れた体が後ろに引き寄せられる感覚。
尻餅をつくと覚悟して瞑った瞳をゆっくり開けば、大好きな黒いエプロンが広がる。
それだけじゃない。
「……間に合った」
「っ!!」
尻餅の代わりにわたしを待っていたのは、蓮の腕にぎゅっと抱き締められた感触だった。
急激に高鳴る鼓動と真っ赤に逆上せていく頬と頭の中と……。
恐る恐る見上げる蓮の顔は、見たこともないくらい間近にある。
心臓が壊れそう……。
「…………ふふっ」
「っ?」
わたしを抱き止めていた腕を緩めた蓮の口から、堪えきれなくなった笑いが漏れ、
「あはははっ」
それを皮切りに声を上げて笑い出した蓮に面食らった。