『花、愛でる人』
何度か蓮の名前を呼んでみたけど、一向に起きる気配は皆無。
こうなったら体を揺さぶってみるしかないかな。
規則的な寝息に合わせて動く蓮の体にそっと触れ、
「蓮、起きてっ」
肩を揺さぶりながら、耳元に名前を呼びかけてみる。
体を揺さぶったおかげか、
「んっ……」
「あっ、蓮」
寝ぼけ眼を薄く開いた蓮がゆっくりと視線を泳がせる。
ちょっと寝ぼけてるのかな。
ふわふわと宙を漂った微睡みの先に、蓮がわたしを捉えた。
「蓮っ」
「ん……百合奈?(ゆりな)」
「えっ?」
呼ばれた名前に一瞬にして、自分の表情が消えていくのがわかった。
……百合奈?
聞き間違え、なんだろうか。
胸の中にフツフツと沸き上がるのは、言い知れぬモヤモヤ感。
ただの聞き間違えならそれで良い。
「蓮……」
わたしの中にモヤモヤを生み出した張本人は、何事もなかったかのように再び寝息を立て始めている。