『花、愛でる人』
「こんにちは」
「……こんにちはっ」
もう随分慣れた道のり。
ショッピングモールを抜ける間際からドキドキが止まらない。
「…………」
何から切り出せば良いのか、眠れない程考えたのに答えは出なかった。
「どうかした?」
元気無いね?
なんて続けて、心配そうにわたしの顔を覗いた蓮の瞳をじっと見つめる。
わたしは……この瞳に映りたいんだ。
身も心も全部、わたしが蓮を見つめるように見つめ返して欲しい。
「……初めてお店に来たときのこと覚えてる?」
ただ真剣な表情を浮かべたわたしに、一瞬驚いたように目を円くした蓮がこちらを見つめ返す。
そして、
「覚えてるよ。……お客さんに名前を聞かれたのは初めてだったからね」
柔らかく小さな笑顔でゆっくりと頷いてくれるから、不安だらけの胸の奥がギュッと熱くなる。
「珍しいお客さんだったから?」
「…………」
訴えるようなわたしの眼差しを、蓮は真っ直ぐ受け止めていた。