『花、愛でる人』
「……そんな顔させたくないのに。……ごめんね」
哀しそうな蓮がわたしを見つめ、ゆっくりと腕を伸ばして遠慮がちに指先で頬に触れる。
次々に頬を伝う雫を両手で拭いながら、わたしは首を精一杯左右に振った。
……謝らないで。
そんな哀しそうな蓮が見たかったワケじゃない……。
気持ちに反して、止まらない自分の涙が恨めしい。
「ごめんね……。どうしても、忘れられないんだ……百合奈のことが」
初めて聞いたときよりも、ハッキリとした声で紡がれた名前。
自分とほとんど変わらない名前の彼女に、嫉妬してしまいそうになる。
「夢梨?」
わたしを呼ぶ声は、変わらず柔らかくて優しい。
まだ潤む視線で蓮を見上げれば、
「俺を、好きになってくれてありがとう」
「……うんっ」
手のひらで頭を撫でられ、精一杯笑顔を返した。
わたし、蓮を好きになって良かった……。