『花、愛でる人』
移り気
赤くなった瞼とがっくり落とした肩で戻ってきたわたしを待っていたのは、
紫陽花の花が咲く垣根の前で待つ夏葵の姿だった。
「……夏葵」
「……骨は拾ってやるって言ったろ」
「わっ!」
いつもより優しい声色で囁いた瞬間、手に持っていたミネラルウォーターのペットボトルを顔に押し当てられた。
パッと広がる冷たい感触に目を開いて夏葵を見上げる。
いつもと変わらない夏葵の顔は、わたしの唇から弱音を誘うようだ……。
「……夏葵」
「なんだよ」
「好きな人が居るって……フラれちゃった」
ははっと笑ってみせたけど、長くは続かない。
夏葵から受け取ったミネラルウォーターで、目元を覆って溢れる涙を誤魔化した。
ただ黙り込んだままだった夏葵の手のひらに、ポンッと頭を撫でられる。