『花、愛でる人』
夢に現れた百合奈は哀しい顔で、ただ俺を見つめていた。
いつもこちらに伸ばされていた手は、ピクリとも動かない……。
「百合奈……」
名前を呟いた俺に、百合奈の瞳から零れ落ちた涙……。
あぁ、そっか……。
百合奈は独りぼっちなんだ。
俺が……百合奈についててやらないと……。
百合奈に手を伸ばしたところで、俺の目は覚めた。
すぐに目を閉じれば、また百合奈と逢えるかな。
でも、もう一度眠る気になれなくて、体をベッドから起こした。
部屋の奥から引っ張り出した花瓶に活けたアイリスと霞草が、ふっと花束を抱えた夢梨を思い出させた。
可愛いって喜んだ後、頬を赤らめて俺に差し出してくれた純粋な瞳。
後ろから抱き止めた感触、体温……全部が、俺に生きる意味を与えてくれた。
「…………」
……夢梨の気持ちに答えたい。
でも、百合奈を忘れたくない。
こんな中途半端な心、夢梨にも百合奈にも失礼だな。
胸を掻きむしりたい衝動に、ギュッと手のひらを握り締めた。