野いちごM-1グランプリ!

 退場途中の清水が血相を変えて走ってきて、スタンドマイク前の紫馬を突き飛ばした。


清水「何考えてるんですかっ」


紫馬「せっかくの機会だから裏世界について、皆にレクチャーしてあげようと思ってさ」


 紫馬は埃を払う仕草で、優雅に立ち上がる。


清水「しなくていいんですっ」


紫馬「青筋立てて怒ることないじゃない?
ヒデさん、気が長いのが長所なのに」


清水「短くしてるのは誰ですかっ」


紫馬「さあ?もしかして、あれ?更年期ってヤツ?」
悪びれない紫馬に、肩を落とす清水。


清水「分かりましたよ、アナタの漫才につきあいますっ」


 目を点にして、しげしげと清水を見つめる紫馬。


 突然訪れた沈黙に、為す術もなく、立ち尽くす清水。


 しばし、男二人が見つめ合うだけという痛々しい沈黙が続く。


紫馬「男に付き合うなんて言われたの、生まれて初めてで」


清水「漫才に、ですよ?」


紫馬「まあ、そうなんだけど」


 呆れ顔の清水が声を絞りだすようにマイクに向かう。


清水「で、どんな漫才を考えてきたんですか?」


紫馬「特に、何も」

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